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2011年 09月 19日
北アルプス常念山脈縦走記 その23
身長は 174cmあるのに体重はわずか 55kgの貧相な体つき。
おまけに過敏性腸症候群気味で年中胃腸の調子がぱっとしないという、虚弱体質の中年男が北アルプスの山に挑むというお話。

3日目の朝、とうとう下山のときがやってきた。



● 下山開始

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6時20分頃下山を開始する。
これは下山直前に燕山荘前で写した写真。

何だ、この皮肉なまでの好天は!雲一つないじゃないか。「きのうがこれだったらなあ」と、どうしても思ってしまう。
正直、こんな好天の下(もと)で縦走したかったなあ・・・。

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指導標の「中房温泉 5.5km」の指す方向に向かって歩き始める。

これから下る道は合戦尾根といい、「北アルプス三大急登」のうちの一つに数えられている。
まさか合戦尾根を登るよりも前に下ることになるとはなあ。何だか新鮮でよい。

夕べ 4時間も(?)熟睡できたせいか、「もう下るだけ」という気楽さのせいか、好天のせいか、体がとても軽く感じられたっけ。

それにしてもいい天気だ。もう一度書こう。きのうがこれだったらなあ・・・。

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6時57分、あっさり合戦小屋に到着。「まだ閉まっている」と思っていたら、7時になってお兄さんが開店準備を始めた。

ここの案内板に、何故この尾根が「合戦尾根」と呼ばれるようになったかの由来が書いてあった。

何でもその昔、日本史にその名を残す平安初期の武人、坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)が魏石鬼という化け物を大合戦の末に討ち果たしたことに由来しているらしい。

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合戦小屋の名物といったらこのスイカだろう。水に浮かんでいるやつだけじゃなく、後ろの箱にもびっしりと詰まっているようだ。

中房温泉から登ってきた場合、この合戦小屋までで一番つらい登りが終わる。
だからここで一息入れようとする登山者が多いのだろう。

ちなみに 1カット 800円、ハーフカット 400円です。

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というわけで、ここからいよいよ合戦尾根が本領を発揮する。すなわち「北アルプス三大急登」に突入する。

「上りはつらいけれど下りは楽」と普通の人はつい思ってしまう。

しかし実際には足やヒザを痛めるのは下山のときだ。怪我をしやすいのも下山のときだ。
だから下山のときこそゆっくりと慎重に下りなければならない。というわけで、このときばかりは私もストックを使っていた。

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いやあ、それにしても登ってくる人の数が半端じゃない。一ノ沢登山口の10倍・・・いやそれ以上かもしれない。

挨拶がとても心地よかった。低山では挨拶したりしなかったりの私も、そしてY氏(わいし)も、積極的に挨拶していた。
まだ朝方だから「お早うございます」を基本にしていた。「行ってらっしゃい」と言うこともあった。また子供とすれ違うときには「頑張って!」と励ましたりした。

とにかく私は元気だった。そして普段の私とは別人のように(?)明るかった。
何故にこんなにも元気だったのか。何故にこんなにも明るかったのか・・・。

一番の理由は 2泊3日の縦走を成し遂げた達成感からだったのだろう。そしてこれから登る人たちに対し、若干優越感に浸っていたというのもあるのかもしれない。

「頑張ってね。オレはまあ軽く縦走をこなしてきたけれどさ・・・」

そんな意識が私にあったのは確かだ。

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それにしても次々に登ってくる。

燕山荘までは観光地・・・ってことなのか、普通の家族連れも目立っていたし、それ以外にも、大型のザックを背負っている本格派、60代以上と思われる高年グループ、カップル、単独・・・など、様々な人たちが登ってきた。
そして、いわゆる山ガールもいた。それも単独も結構目立っていた。彼女たちも結構大き目のザックを背負っている。中にはテント泊っぽい人もいた。すげえなあ。

ちょっと困るのは、あまりに登山者が多過ぎる点。
山は「登り優先」だから一々こちらが止まって道を譲らなければならない。

いや、「譲り合いの精神」それ自体は心地よいことだと思っていた。ちゃんと向こうも必ずお礼を述べてくれるし。
ただ、ちょっとした団体が続くとね、いわゆる渋滞を起こしてしまってこっちは少しも進めなくなってしまう。

いつまでも待っていたら、逆に登ってくるおばさんに「適当に進んでっちゃった方がいいわよ、キリがないから」とアドバイスされたほどだ。

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合戦尾根には第一ベンチ、第二ベンチ、第三ベンチなどの休憩ポイントがある。
それらのベンチもご覧のように人で一杯。これではまるで高尾山ですね。

ところで第二ベンチへの到着予定時間は 8時17分だったのに、もう8時47分になっていた。30分も遅れている。
これも「登り優先」で譲り続けたせいである。いや、驚きました。

● 中房温泉にて

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9時43分、ようやく登山口に到着!
結局 2時間45分のコースを 3時間26分もかけてしまったことになる。
しかし譲り合いの精神でのんびりと下りて来たせいか、足やヒザはなんでもなかった。これは思わぬ収穫だ。

これで遂に今回の北アルプス常念山脈縦走も完結した。私はY氏と手を取り合って喜び合った。Y氏の頬には一筋の涙が流れていた。

・・・なんてことは全くないのだから困ってしまう。
何処か我々はシラけているのだろうか・・・。

いや、でも私はささやかな満足感に浸っていたんですよ、これでも。
初アルプスでこの縦走計画というのは、やはりやや無理があったのだから。それを無事成し遂げたのだから・・・。

さて、後ろに写っている建物こそが、中房温泉の日帰り温泉施設。
早速入ろうではないか!

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というわけで早速 700円払って中に入る。

実はこの温泉が開くのは 9時半から。つまりまだ開いたばかりということで、ご覧のようにすいていた。

いやあ、気持ちいいっす!まるで温泉の成分が体に染み入るようだった。
縦走のあとの温泉に勝るものは何一つないのではないだろうか。

ここで足を中心に自分の体をチェックしてみた。

特に問題はなかった。一番気にしていた足首なども何でもない。富士山のときには問題になったことがある親指の裏あたりも無事だった。

そう。本格的な登山としては今回が初陣だったモンベルのワオナブーツ、不思議なくらい私の足に馴染んでくれて、ほとんど全く違和感を覚えることはなかった。
高尾山での試運転のとき、あれほど気になっていた靴の重さや足との一体感のなさも、この本番ではまるで気にならなかった。
こんなこともあるんだなあ。

そして特筆すべき点として、初日や 2日目に感じた嫌な疲労感が全くなかった。 3日目である本日は登りが全くなかったこともあるのかもしれないが、体が登山というものに慣れてきていたのかもしれない(だから本当はもう 1日歩きたかった)。

一方私のお古の登山靴を履いていたY氏はどうか。
流石にやや靴ずれっぽいものができていたようだ。でも豆が潰れる・・・というところまでは行かなかったようだから、まずまずだろう。

ただ、登山靴が少し小さめだったせいで厚手の靴下を履けなかったため、彼はごく普通の薄っぺらな靴下を履いていた。
その靴下がボロボロになってしまったという。やっぱり縦走っていうのはすごいことですね・・・。

● 神風タクシー

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この時点で10時半。
バスの時刻表を見てみたら、12時35分まで来ないことが判明。2時間も待つなんて嫌だ。

そこでタクシーの運転手さんに相談したら、今から飛ばせば次の11時20分穂高駅発の大糸線に間に合うという。

「ここからだいたい40分だから、10分前には着けますよ」

というわけで10時31分頃、中房温泉を出発。
運転手さん、「10分前には着く」と約束したせいか、ヒヤヒヤするほどの神風運転をしだした。

見通しの悪いところは流石にスピードを落とすが、そうでなくなるといきなりスピードをアップさせた。
それでなくてもたいして道幅のない山道なのだから、こちとら気が気でなかった。

あとその運転手さん、とても話好きの人だった。
神風運転をしながら、なおかつよく喋るんで、余計怖かった。

でも面白い話もあったよ。

例えば、長野県は海がないから、必ず夏休みの間に一度は海に連れていかないと子供が満足しない、とか。

このへんの子供は中学の時に、例えば燕岳などに学校登山をする。学校登山は学校の行事だから、ある程度天気の悪い日でも強引に登ってしまう。そういうようなときに当たった子供は山が嫌いになるし、そうでなくて素敵なご来光でも拝めたりした子供は山が好きになる、とか・・・。

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神風運転は山を下りてからも一緒だった。前にとろとろ走っている車があると、そいつを強引に追い抜くんじゃないかと、また冷や冷やした。

そして運転手さんが言ったとおりに、ぴたりと電車の出発時間10分前に穂高駅に到着した。流石はプロだ。

最後に彼、「黄色い泡の出るジュースで乾杯してください」と言っていたっけ。

3分遅れの11時23分、松本に向けて大糸線が出発する。
安曇野の田園地帯を走る大糸線。車窓からは北アルプスの山々がよく見えた。


グッバイ、北アルプス。また来年もきっと来るからな・・・


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by JunMorosawA | 2011-09-19 08:34 | 低山歩き | Comments(8)
Commented by 一坪庵 at 2011-09-19 14:10 x
長文大作ありがとうございました。山好き私は、毎日楽しみにハラハラドキドキで読ませていただきました。
文中の写真も的確で説得力も充分です。
JUNさんは充分体力も気力もある中年です(笑い)から今度からは安心して挑戦して下さい。
お腹の調子はあまり気にしないことです。ぐずったらでたとこ勝負と思うと不思議と平気なものです(笑い)
わたしもこれから時間ができますので、子供頃のぼった故郷の山を訪ねてみようかと思います。2000m前後ですが百名山も幾つかあるんですよ・・・・・・・・でも体が持つかな?
こんなことも考えながら退職記念品にはNikonAW100をリクエストしてしまいました。
今朝鎌倉にお墓参りに行きました。お店は開いていましたが・・・・・・残念でした。
Commented by JunMorosawA at 2011-09-19 17:32
おお!一坪庵さん、お久しぶりです!

>長文大作ありがとうございました。山好き私は、毎日楽しみにハラハラドキドキで読ませていただきました。

ありがとうございます。ただこのあと更に3つ、こぼれ話が続きます(笑)。

> お腹の調子はあまり気にしないことです。ぐずったらでたとこ勝負と思うと不思議と平気なものです(笑い)

そうかもしれませんね。過敏性腸症候群は半分精神的なものらしいですから。

> わたしもこれから時間ができますので、子供頃のぼった故郷の山を訪ねてみようかと思います。2000m前後ですが百名山も幾つかあるんですよ・・・・・・・・でも体が持つかな?

おお!それはいいですね!やっぱり自然の中を歩くのが健康には一番ですよ。

> こんなことも考えながら退職記念品にはNikonAW100をリクエストしてしまいました。

もう退職ですか?早いですねえ。でもこれからのんびりできますね。
また遊びに来てください。

付記:

パソコンを替えたときにそちらのメルアドを紛失してしまったため、そのうちよかったらメールを送ってください。素敵な画像付きのを(笑)。
Commented by 山バカ夫婦 at 2011-09-19 18:01 x
無事、降りられたんですね。僕なんか身長170・体重55キロ・胃腸が弱く薬、持参で山へ、高所恐怖症ですし、junさんはまだまだいろんな山に行けますよ。もう秋ですから紅葉を楽しみに一眼レフを持っての計画を立ててみては・・・僕なんか最近一眼レフを持つのがおっくうで(重いので)そう、こぼれ話があるんでしたよね。楽しみにしてます。
Commented by JunMorosawA at 2011-09-19 18:39
山バカ夫婦さん(って、ちょっと書きにくいんですけれど 苦笑)、こんにちは。

> 僕なんか身長170・体重55キロ・胃腸が弱く薬、持参で山へ、高所恐怖症ですし、junさんはまだまだいろんな山に行けますよ。

何か似てますね。俄然親近感が湧いてしまいます(笑)。

> もう秋ですから紅葉を楽しみに一眼レフを持っての計画を立ててみては・・・

そうですねえ。行ってみたいですが、連休はかなり難しいんで、低山の日帰りになってしまいそうです。

> 僕なんか最近一眼レフを持つのがおっくうで(重いので)

でもそちらのブログの写真、色が非常に鮮やかですよね。目に突き刺さってきそうです。

> そう、こぼれ話があるんでしたよね。楽しみにしてます。

あと3話、お付き合いください。それで本当の THE END です。
Commented by タナサンソフィ at 2011-09-21 09:02 x
はじめまして、
楽しく拝読いたしました。
同じ日に同じところを歩いていたのだなあって このあたりで初めて知りました。
なんと 私の移した写真に Y氏が 写っています。
燕山荘のにぎやかな部分です。
その上 私がこのページをあたるという奇跡。
世の中 コンなびっくりすることがあるんだと 驚きばかりです。
Commented by JunMorosawA at 2011-09-21 16:37
タナサンソフィさん、はじめまして。

> なんと 私の移した写真に Y氏が 写っています。
> 燕山荘のにぎやかな部分です。

へえ!それはすごい偶然ですねえ!

> その上 私がこのページをあたるという奇跡。
> 世の中 コンなびっくりすることがあるんだと 驚きばかりです。

本当ですね。ちょっと怖いくらいですね。

これは「鈴木宗男氏がどうのこうの・・・」とかうっかり書けないですね。本人見てたりして(苦笑)。
Commented by タナサンソフィ at 2011-09-21 19:17 x
はい、そう思います。
数あるブログから私が「季節を求めて」に行きあたる確率は存じませんが、偶然の中の大きな奇跡のようなものですね。
まさか同じ日に歩いていたとは、読み始めは気づきませんでした。もっとも私は小屋の到着は早く11時でした。お茶など飲んで、のんびりしているときに、Y氏を偶然写したのですねぇ。山歩きの記を堪能しました。ありがとうございました。
Commented by タナサンソフィ at 2011-09-22 09:45 x
おはようございます。
この紀行文は今回が最後なのですね。
いろいろと楽しい写真がありました。
感謝です。
さて
お分かりにならないという綺麗な花のことですが、
ハクサンチドリ
では ありませんか?
私も同じところを歩いていましたので、この花の写真をとりました。
図鑑で確認もしましたので、たぶん間違いなく大丈夫だとは思いますが。。。。。わたし ほぼ認知症がかかっておりますので。。。

台風15号の影響はありませんでしたか?
ほんとうに恐ろしい暴風雨でした。

長い間 楽しかったです。
また お邪魔させていただきますので、たくさんの高山のお花の写真をよろしくお願い申し上げます。


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