2011年 09月 06日
北アルプス常念山脈縦走記 その11
身長は 174cmあるのに体重はわずか 55kgの貧相な体つき。
おまけに過敏性腸症候群気味で年中胃腸の調子がぱっとしないという、虚弱体質の中年男が北アルプスの山に挑むというお話。

常念岳目指しての登山を始めた私とY氏であったが、Y氏に異変が訪れようとしていた・・・。




● Y氏の異変

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1時50分、また小さな沢に出くわす。ここでまた休む。
登山開始から2時間44分、流石に疲労が蓄積し始めていた。だから「沢に出くわすと休む」というのを小刻みに繰り返していた感じだ。

ここの沢の水は異常に冷たかった。長い間手を入れておけないほどに。
恐らく、雪渓(せっけい:高山の斜面のくぼみや谷に、夏になってもなお雪がとけずに大きく残ったもの)が溶けたものだったんじゃないかと思う。

実はこのあたりからY氏(わいし)に異変が起きていた。

いつも私以上にすれ違う人との挨拶を欠かさないY氏が後ろで声を発しなくなっていた。
つまり声を出せないほどに疲労していたのだ。

そこで私はY氏にストックを使うことを指示した。
予め私は彼にお古のストックを渡してあった。本来足に負担の来る合戦尾根の下山時に使わせようと思っていたのだが、彼の様子を見て「危険」と判断し、使うことを指示したのだ。

これは正解だった。その後時々振り返って彼の様子を見てみると、そのストックに全体重をかけるかのような歩き方をしていた。あまりよくない歩き方だ。

そう、このときY氏は限界に達していたのだ・・・。

● また黄色い花との出合い

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時に沢が滝のようになっている場所があった。

おっと!そこに何やら黄色い花をつけた植物がびっしりと咲き乱れているではないか!

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あとで分かったことだが、ゴマノハグサ科の多年草、オオバミゾホオズキ(大葉溝酸漿)のようだ。

和名は「大きな葉を持つミゾホオズキ」の意味で、ミゾホオズキ(溝酸漿)は水辺(溝)に生え、実がホオズキに似ていることから来ている。
亜高山帯の水湿地や登山道脇で、水の染み出しているようなところでよく見かける多年草ということだから条件にぴったりだ。

写真はシャープネスを強めにかけて誤魔化しているが、やはりあまりしゃきっとした絵ではない。
また三脚を持ってこなかったことを後悔した私だった。

ただ野の花の登場は私の疲労を飛ばしてくれる。「おお!」と思わず大きな声を発せずにはいられないほど興奮する。
一方Y氏はどうか。別に彼は花にそれほどの関心を持っていない。つまり私のように花と出合うことで疲れが飛ぶようなことがない。

案外これが彼と私の大きな差だったのかもしれない・・・。

● 最後の踏ん張り

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2時26分・・・つまり登山開始から3時間20分後、遂に標高が 2000mを超えた。

標高が 100m上がるごとに気温は 0.6度下がるといわれているから、すでに麓よりも 12度ぐらいは低いはずだ。
でもあまりその実感はなかったように思える。ただひたすら暑かったという印象しか残ってない。

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2時28分、「胸突八丁」の文字がある指導標に出くわた途端、道が険しくなってきた。

「胸突き」とは「山道や坂などの険しく急なところ」の意味だ。更に「胸突き八丁」とは、「山道で、登りのきつい難所。転じて、物事をなしとげるのに一番苦しい時期」のことだ。

どっちも同じようなもの。要するにここから先が一ノ沢コースの最大の難所になる。
大丈夫か、Y氏。

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実際しんどい木段が続いたかと思うと、沢沿いの険しい道が現れたりした。

そしてこのあたりのことを「福助落とし」と言うらしい。でも別に「福助落とし」という登山用語はない(と思う)。何故ここで善良な福助を落とさなければならないのかさっぱり分からない。

ところで、Y氏はともかく、私はこのあたりをそんなにつらいとは思っていなかったようだ。手帳に「つらい」という文字が一度も出てこないのがそのいい証拠だ。
きっと、やっとエンジンが全開になってきたのだろう。あるいは多少はクライマーズ・ハイ状態になっていたのかもしれない。

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3時に「最後の水場」を過ぎた頃、60代ぐらいの高年男性 4人組の後ろについた。

胸突き八丁の厳しい道がなおも続く。しかし 60代高年男性 4人組のペースが遅いため、そんなに息切れすることもなく比較的楽に登ることができていた。
どうやら彼らのペースがちょうどよかったようだ。

途中で一度、その男性のうちの 1人が親切にも道を譲ってくれそうになった。自分達が邪魔していると思ったのだろう。
そこで「いえ、このペースがちょうどいいんで」と丁重にお断りし、相変わらずずっと彼らの後ろを、まるで同じパーティーであるかのようについていった。

彼らのペースは私以上にY氏に好影響を与えていた。やっと私と普通に喋ることができるようになってきた。
「さっきは歩けなくなりかけていた」と彼が私に告白したのはこのときだった・・・。

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3時25分、ようやく左側が開け、稜線が見えてきた。

「ひょっとしたらあれが百名山のうちの一つの常念岳かも!」と私は興奮気味にY氏に話す。

素晴らしいなあ!疲れが飛ぶ!

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振り返れば遠く向こうの方に、安曇野(あずみの)の町が見えていた。あんな方から登ってきたんだなあ・・・。

さあ、あとひと踏ん張りだ!ゴールの常念小屋が待っている!

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by JunMorosawA | 2011-09-06 08:33 | 山歩き&花 | Comments(0)


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