4月も半ばになった。そろそろスミレ好きの血が騒ぎ出す頃だ。
関東でスミレといえば何といっても高尾山だ。これまで高尾山とその周辺地域だけで、約20種類のスミレが観察されているという。
今回はそのうち何種類のスミレと出合えるだろうか・・・。
高尾山といえば東京都民憩いの山。年間数多くのハイカーが訪れる。特に春と秋の行楽シーズンにはハイカーが集中する。
あまり人が多いのは嫌だ。そこで今回は高尾山そのものは避け、奥高尾の最高峰、陣馬山(じんばさん)から、奥高尾縦走路を高尾山に向けて歩いてみることにした。
北鎌倉から1時間40分かけて高尾駅に到着。北口バスターミナルの1番乗り場からバスに乗り換え、約50分かけて陣馬高原下バス停に到着した。
ご覧のとおりこの日はとてもよく晴れていた。普通のハイカーの人にとっては「素晴らしい行楽日和」と言えるだろう。
しかしスミレなどの小さな野の花の撮影をしようと思っている人間にとってはこの強すぎる日差しはいささか邪魔だった。
だからこの日私は秘密兵器を持ってきていた。
8時25分、陣馬山に向けて歩き始める。
最初に目に入ったスミレはこれ。いかにも「園芸種っぽいなあ」と思った人は鋭い。
これは北米原産の外来種で、繁殖力がとても強い Viola sororia(ビオラ・ソロリア)の仲間で、「プリケアナ」というのだそうだ。
アメリカ東部では森・草地・荒地に侵出しているというから、そのうちに高尾山の奥にも侵入していくかもしれない。
8時45分に林道を離れて山に入っていく。最初は薄暗い植林帯の急登が続く。
すぐに暑くなってきた。この日は春を通り越して初夏の陽気だったのだ。
暑さと同時に感じたのが体の重さ。歩き初めで体の重さを感じるようじゃ、奥高尾の縦走はきつそうだな・・・。
そのうち植林帯を抜けて、ご覧の明るい自然林になる。やっぱり自然林はいい。心が洗われる。
だけどこの時点でもう結構バテ始めていた。まだ30分しか歩いていないのに、どうも先が思いやられる。
そんな雑木林の足元にポツリと咲いていたのがこのヒトリシズカ。
漢字で書くと「一人静」。そう、源義経の愛妾(あいしょう)で、舞の名手だった静御前(しずかごぜん)からこの名が来ている。
そう思って見ているせいか、どこかに凛(りん)とした美しさを感じてしまう。
やがて山頂直下の斜面に差し掛かる。ここにはナガバノスミレサイシンという長い名前のスミレが咲き乱れているはずなのに、何故かその数が少ない。
いったいどうしたことか。まだ早いのか、もう遅いのか・・・。
もちろんあるにはあった。これがそのナガバノスミレサイシンだ。
漢字で書くと「長葉の菫細辛」。その名のとおり、葉が先の尖った長卵形をしているのが特徴で、高尾山やその周辺ではよく見かけるスミレだ。
山頂が近づいてくる。どうも例年よりもスミレの数が少ない気がしてならない。
それでもこうしてポツポツと現れ始めた(これは鎌倉にも咲いているタチツボスミレ)。
しかしご覧の直射日光がいかにも撮影の邪魔である。
ここで遂に私は「秘密兵器」をデイパックから取り出したのであった・・・。
(つづく・・・)